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京都市北区紫野を拠点に工務店を営む「紫野の大工さん・長尾工務店」棟梁大工、長尾唯一郎さんが手掛けた「建具の建て付け施工」「鴨居修正・天井張り施工」をご紹介します。
京都市右京区の住宅が今回の施工現場。 まだ冒頭ですが、施工を終えた和室の様子をご覧ください。
戸襖を本格的な様式で作られた建具ガラス格子戸にするにあたり、長尾さんが信頼を寄せる熟練建具職人さんに建具格子戸の製作を依頼し、四枚扉の木組みガラス格子建具が完成しました。
施主様が憧れていたとおっしゃる本格的な格子戸建具戸。 京間和室という事もあり、建具戸の寸法もそれに合わせた大きなサイズなので、一面が建具格子戸になるとかなりの迫力です! 施工前の襖戸と比べるとかなり重厚な雰囲気ですが凝った意匠の欄間ともバランスが取れて一体感が生まれたと思います。
手前の部屋の照明を消して撮ってみると、奥の部屋の灯りが格子を通して漏れ、うっとりする程にとても美しい佇まいで、こんな光景・空間が自宅にあるのは本当に羨ましいばかりです。 |
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取材に伺ったこの日は工事五日目の最終工程、建具立て付けとなります。
建具立て付けを簡単に説明すると「建具と鴨居・敷居・柱との寸法狂いを調節する」ことです。
本来は水平な鴨居や垂直な柱は年数を経れば、殆どの木造建築で多かれ少なかれ歪みが生じてきます。 それが原因で扉がスムーズに閉まらない、しまっても隙間が目立つ等の不具合が生じますから、その狂いを調節し、元の正常な状態に近づけるのです。
此方の建物は鴨居の真ん中辺りが下方向に大きく湾曲しており、その状況は放っておけない事態ですので、鴨居の下がった部分をジャッキアップして水平を確保した後、水平を維持するために天井裏から長押ごと鴨居を吊り上げて修正する方法で水平をだしたそうです。 |
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鴨居修正に伴い天井の一部をめくる事になるので、天井の張り替えも施工されます。 元々の天井板も本物の木板が張られており本当に素晴らしい作りの和室でしたが、もっと明るい色にイメージチェンジしたいと云う施主様の御意向(最初は木目調天井クロスで仕上げる事を考えていらっしゃったそうです)
長尾さんは此方の本格的な和室にはクロスよりも本物の木を使いたいと考え、天井張り替えにあたり、 長尾さん自らが木材買いつけで仕入れた桧の板材を天井板にする事となりました。
もちろん施主様の御意向が最優先なので実物を見ながら色味も確認して頂き、最終の仕上がりを説明したうえで、納得して頂いてからの天井張り替え施工なのは言うまでもありません。
※天井板として桧板を使うにあたり製材所に持ち込みカンナで表面を整える加工が施されています。 |
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鴨居修正は施しましたが、まだ少しのたわみが発生している状態です。(敷居と鴨居の内法が狭くなり、柱と柱の内寸は広がっている状態)
この場合、鴨居と柱を削るor建具を鴨居と柱の曲がりに合わせて削る方法がありますが
天井をめくり屋根裏から鴨居を吊り下げる工事を施したので、建具を溝に入れられるようになりましたが、スムーズな開閉が出来るようにするには更に手を食らえていきます。
完全には鴨居の水平を取り戻せない為、最終調整は、建具上部と下部を削ったり切ったりする事で、建具を家の内寸に合わせて調節するのだそうです。
四枚の建具は寸法通りに精密に作られ長尾さんの手元に届くと、ここから長尾さんの大工職人仕事が始まります。
先ずは鴨居への納まりを調節する為に寸法を測り、鋸で大まかな凸形に切り出し、しゃくり鉋を用いて切り口を精密に整えていきます。
※本来は建具の上部(上桟)はL字型に切り出して作られていますが、此処の和室用に設えたのは「両面格子ガラスはめ込み建具」で一枚が分厚くなっています。 その為、両外二枚の建具はL字型で真ん中二枚は凸型の形状になりました。 |
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建具の上桟に引き続き、下部(下桟)には一枚当たり二個の戸車を埋め込みます。
この格子建具は京襖と同じ大きさがありますから、その建具のほぼ全面に板ガラスをはめ込むと建具一枚が非常に重くなります。※実際、私が持ち上げるのにもかなりの重量を感じました。
元々の戸襖とは比べ物にならないと言ってもよい今回の新しい建具をそのままはめ込んでも、開閉で敷居の溝がすぐに擦り減ってしまう事が簡単に想像できますし(戸車無しの状態では建具の重量と摩擦で開閉は殆ど不可能)、建具のスムーズなスライド開閉をサポートするには欠かせない部品です。
戸車の御かげで重量感のある心地よい開閉動作ができるようになりました。 |
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次に建具を閉めた時の柱との隙間を調整します。
先にも述べたように柱の中心付近が若干ですが外に膨らむように曲がりっていたので、建具戸と柱が接する部分に隙間が生じていました。
この場合は柱上部・下部に溝を掘って建具の縁が溝に埋まるようにして隙間を防ぐか、建具の上部・下部の縁を柱の曲がりに合わせて薄く削るかの方法で対処しますが、今回は隙間が少ないので建具を鉋で削って対処する事になりました。
この作業は手作業ですから大工職人の感覚が頼りになります。 数回削って建具をはめ、また数回削ってはめるのを繰り返して、理想の状態に近づけていきました。 |
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建具建て付けが終わると、いよいよ最後の工程、板ガラスを建具にはめ込みます。
建具上桟には板ガラス厚の開口部が儲けてあり、そこから板ガラスをスライドさせて建具の中に入れていく仕組みです。 ※縦と横に細く組まれた格子状の組子が板ガラスをサンドイッチするイメージです。
一枚の建具に四枚の板ガラスを差し込んでいくので、ガラスとガラスの間にはクッションの代わりになる木片(「あんこ」と呼んでいました)も差し込んでいきます。
建具が精密に作られているがゆえ板ガラスがスカスカ入っていく事はありません。 この作業がスイスイ簡単に進むようでは組み上がった段階で建具の中でガラスがガタガタ動いてしまいます。
単に板ガラスをスライドさせてハメ込む場面でしたが、その手間を観察していると、建具職人の業が見える場面でもありました。 ※建具一枚に板ガラス四枚なので計十六枚の板ガラスを差し込んで完成させました。 |
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建具立て付け施工が滞り無く終了し、施主様と長尾さんのツーショットを撮らせていただきました。
この両面格子建具製作には、長尾さんが市場に出向いて自ら買い付けた良質の赤杉を惜しみなく材料に使い素晴らしい建具となり、使われた赤杉もこのような立派な建具にして貰え、きっと喜んでいるに違いありません。
京間の室内寸法(内法幅3,730mm、高さ1.760mm)に合わせてる為当然、京襖の寸法となり建具一枚のサイズが大きく、幅950mm(一般的には幅900mm)もあるので、材料の赤杉が足りるか少し心配だったといいます。
建具立て付け・天井張り・鴨居修正の全てが上手くいき、永年の思いが叶えられた施主様の笑顔と、そして伝統的な日本様式の和室にとっておきの赤杉材で本格的な両面格子ガラス建具を製作できて木を心から愛する棟梁大工・長尾さんも大変満足のご様子でした。
京都で鴨居修正・鴨居修理、京建具の製作、建具立て付けの御相談があれば、紫野の大工さん・長尾工務店の長尾さんまで御連絡ください。 |
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