プレカットの誕生によって生まれたモノと失われたモノ

昔の木造の家造りではずっと柱や梁などはすべて墨付け・刻みと
手作業で寸法を測って、ノミやカンナなどで１つ１つ削っていました。

しかしその作業は、扱う大工さんの技術によって大きく差が生まれ
柱や梁は家の骨格となるだけに致命的になりかねません。

そんな状況の中、１９９０年ごろ 『 プレカット 』 が登場。

今まで人の手でやっていたモノを
機械でカットして、それを現場に行って棟上げをするだけ（組み立てる）
これまで一般家屋の墨付け刻みだけで１週間～１ヶ月かかっていたものが
大工さんの負担だけでなく
工期の短縮によりお客さんの費用の負担も減り、その需要は一気に増えました。

大手ハウスメーカーはその早さと安さをウリにしたものの
現場で働く大工さんは生産性と効率性ばかりを求められ
もらえる給料がどんどん下がっていき
昔は頑張れば頑張った分だけ稼げる夢のある職業の１つだったモノが
今ではそうでなくなっているという現状が生まれました。

更なる問題は、大工さん自身の技術力の低下です。
新築ばかりやっている大工さんでは墨付け・刻みはおろか
家の構造もよくわかっていない為
リフォームやリノベーションといった古い家や複雑な家の工事になると
全く何もできないという二重の問題が発生しました。

ある大工さんは言います。
プレカットは安定した木材を提供できる反面
まだまだ細かな要求には応えられない部分があって
プレカット工場にそれを伝えてもその通りにできないことがあるから
自分たちで墨付け刻みをやっていてその方が応用しやすいという意見もあります。

お客さんにとって家は人生で大きな買い物です。
少しでも安く購入したいという気持ちも分かりますが

安いには安いなりの理由が必ずあるということと
その裏で働く大工さんの現状がこのように変わってしまったこと

安定性や便利さを追求することで人間が退化してしまうのは何とも悲しいことです。