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真夏の太陽が降り注ぐ こちらの京都市右京区のお寺には 千葉県いすみ市の腕利きの瓦職人 戸田さんが 応援でこちらに来られていると聞き
その卓越された業とこだわり 何よりその人柄を知るためにお会いしてきました。
到着するとすでに戸田さんは 葺き替えで使用する南蛮漆喰を運ばれていて 作業途中でしたが笑顔で対応してくださり
丁度、小休止するところだったそうなので その時間を利用していろいろとお話を伺いました。 |
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戸田さんはこの道一筋40年以上と 百戦錬磨の瓦職人として数々の現場を施工されてきたこともあって 瓦のことになると真剣に、そして熱く語ってくださいましたが
お茶目でユーモアのセンスもあって 千葉で瓦の工事をしているときは 家主であるお客さん、特におばあちゃん方との会話が弾むそうで 10時、15時の小休止のときは お茶を出しつつ戸田さんとの会話を楽しみにしているというのも
僕自身、実際にお話してみて 腕だけでなく、そのお人柄が地元の人たちから親しまれている 最大の魅力なのかなと感じました。 |
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戸田さんは奈良県ご出身で学生時代 友達に誘われアルバイトで瓦の仕事をしたとき 周りには同世代の若い人たちがいて とても楽しく仕事できたことが良い思い出として残り 就職先が決まっていたそうですが
瓦職人は自分の天職だと強く感じ この世界に本格的に入ってこられました。
しかし、修業時代はとても厳しい親方の元 奈良県の社寺・仏閣をメインに
天理教の五階建ての詰め所の葺き替えのときは 約二万枚の瓦を炎天下の真夏に何度も運び上げるなど 肉体的にも相当大変だったと お話を聴いてるだけでもその苦労がヒシヒシと感じられる内容でした。 |
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小休止を終え、作業に入ってしばらくして 他の現場からリルーフまつだの松田さんが到着。
戸田さんと作業状況や進み具合を確認し合い これからは松田さんもいっしょになって作業をします。
こちらの現場では 棟の完成には六段ののし瓦を積み上げる必要があり 屋根に上がると、二段目に取り掛かられているところでした。 |
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戸田さんは25歳のとき瓦葺一級技能士の資格を 当時 最年少で取得されました。
その腕の良さは台風によって顕著に表れ 他の職人さんが施工した瓦が剥がれ、破損する中 戸田さんが施工した家の屋根はビクともしなかったことで 一気に戸田さんへの信頼が高まったといいます。
修業時代からずっと奈良県で瓦屋をされていましたが 着実に技術と経験を積み重ね続けた結果 東日本大震災の復興仕事で茨城県へ行き
時代の流れとともにハウスメーカーが台頭してきたことで 昔ながらの職人が生き難い業界となり そのまま千葉県へと拠点を移されました。 |
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それでも戸田さんは福島、茨城、千葉、近畿、長崎と 全国の様々な場所で瓦の工事をされてきましたが 夏の京都の暑さは耐えがたいほどのモノで
千葉県いすみ市では滅多に夕立もなく 気候もカラッとしているそうですが 京都では連日の猛暑に夕立と 作業が思うように進んでいないとのことでした。
確かに僕は僅か1時間ほどしか屋根の上にいませんでしたが 茹だる暑さが襲ってきて体力と集中力を奪われる感じで 扇風機ももはやその役目を果たせないほど・・・。
この中で連日作業をする 戸田さんや松田さんにはホント頭が下がります。 |
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作業後半は 松田さんが南蛮漆喰を付けていき 戸田さんがのし瓦を積み上げていきます。
話を聴くと今は昔のように土葺きではなく ほとんどの瓦が 桟木を使って瓦を引っかけて取り付ける桟掛けが主流ですが 屋根の頂上である主棟の部分はこうやって南蛮漆喰を使用します。
今の南蛮漆喰は耐久性と防水性も高くなっていて 棟は屋根の見える部分の為、白色のモノを使います。 |
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僕も今回、初めて知った 『 のし瓦 』 とは 屋根の一番上に施す短冊状の瓦のこと指します。
雨水が瓦と瓦の継ぎ目から浸入しやすいので 漆喰を塗り込みながら防水加工を施し こうやって数段に積み上げて1つの棟を造り上げます。
この作業を効率ではなく いかに丁寧で確実にするかで屋根だけでなく 家全体の耐久性に大きく影響してくるだけに 戸田さんは40年以上のキャリアから
『 人一倍手を加える 』 というポリシーで 25年もつ屋根を50年もつようにする施工を意識されています。 |
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戸田さんは 東大寺大仏殿、奈良の公会堂、鎌倉大仏の裏回路 成田山新勝寺、彦根城・・・と 数々の社寺・仏閣を手掛けてこられたことで その技術は誰もが認めるほどのモノを身に着けられましたが
京都・大阪の一般住宅の施工の悪さにはとても驚かれ 同じ職人として怒りに似た無念さがあるそうです。
家の建て方が悪く、土台の役割を果たしていない ただ備え付けられた木があるだけで、ほぞ穴もない 屋根の瓦も遠目には並んで見えていても 近くで見ると隙間だらけで針金で1つ1つ留められてなく ただ大まかに留められているだけ・・・
もっとしっかりとした家造りをしていれば 台風や震災のときにあそこまで被害は出なかったと仰り 僕はその話を聴いて京都人としてとても残念に思いました。 |
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日が暮れてきた為 今日はキリのいいところで一旦終わりです。
この十数年、洋風の一般住宅が増えたことで 日本瓦を使った純和風の家の需要が減ってきましたが 日本の家屋にはやはり瓦が一番似合います。
特に今回使用した 『 いぶし瓦 』 であれば 50年以上大丈夫ですと、戸田さんは自信をもって仰います。
春夏秋冬、屋根の上で日々己と向き合う 卓越した技術と人間力を持った職人さんたちがいて
そんな職人さんのチカラが これからもずっと必要であることは明白です。 |
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二日後、再び右京区のお寺に伺いました。
この日は連日の猛暑が少し雲空で和らぎ 作業が捗りましたと4段目まで積み上がった状態で これから5段目を積み上げられるところでした。 |
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連日の猛暑で食欲が落ちそうですが 戸田さんはどんなときでもごはんはしっかり食べると 特に夏場は揚げ物とかを体が欲するそうです。
釣りが趣味とあって 戸田さん自身で魚を捌いたり料理もされます。
辛いモノも大好きな戸田さんは 勝浦タンタンメンの刺激のある辛さにハマり過ぎて 普通のラーメンの味気なく感じたと(笑)
これだけ暑くてもいつも同じテンションで 変わらない人柄が戸田さんの魅力ですね。 |
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この瓦と瓦の間に挟まれた木は、『 楔 (くさび) 』 と言って 棟を真っすぐに造ってしまうと 下から見た時に鬼瓦で垂れ下がって見えてしまうことから
鬼瓦の際で棟をせり上がらせ 高さを出すために一時的に置かれているモノです。
今回のようにお寺の場合は 特に棟をせり上がらせる必要があります。 |
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これは見た目通り 『 鳥居 (とりい) 』 と言います。
先ほどの楔と同じく 棟を鬼瓦に向かってせり上がらせるためにこの鳥居を使って 滑らかな美しい曲線を造り上げていきます。
棟は瓦屋根で一番の魅せ場になるので みなさんもご自宅の屋根だけでなく 旅先や観光先で目にするお寺などの棟瓦をご覧になってみてください。 |
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南蛮漆喰を施して・・・ |
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瓦に銅線をつける・・・ |
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瓦の屋根は 戸田さんのような職人さんの細かな作業の積み重ねによって 1つの形になっていることを改めて実感しました。
そしてその中には 『 人一倍手を加える 』 という 気持ちが込められていることも忘れてはいけません。 |
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・・・数日後、完成しました!
神社やお寺などは一般住宅とは違って 瓦屋さんなら誰でもできるモノではなく 技術はもちろんのこと、経験が大きく左右する施工になり
未熟で経験の浅い職人さんに頼んでしまうと 屋根本来の役割を果たせず致命的となります。
ご覧のように下から見上げると 左右の鬼瓦に向かって棟が少しずつせり上がっているのが分かります。
この繊細さの要求される微妙な匙加減は 技術と経験のある職人さんにしか出せない匠の技なんです。
取材撮影&文 : とくおか じゅん |
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