東京都品川区　　庭のお手入れ

「ミミズさんも大事な仲間ですからね。」
柔らかく笑いながら地面を見つめるその目はまっすぐで優しさを帯びていました。
今回ご紹介するのは、埼玉県川口市を拠点に活動する造園職人の後藤ロレンスさんです。
合同会社藤空豆の代表を務めています。
台湾と日本のハーフで、生まれも育ちも日本の後藤さんは福岡県の自然豊かな地域で育ちました。
幼少期は虫取りや木登りに夢中で、その頃から芽生えた自然への愛は今も変わらず、今の仕事の中心にあります。
「自然が好きで、この仕事をしています。」と語る後藤さんは休む暇も惜しんで活動を続け、今日もどこかのお庭へと向かいます。

この日、S様邸の庭には水色や黄色の春らしく可愛らしい数種類の花たちが加わりました。
春の日差しの中で輝くように咲くその花は、庭の表情をぐっと明るくしてくれます。
庭の表層には砂利が混ざっており、後藤さんは「根が張りやすく、今日だけじゃなく将来的にも作業がしやすいように」と丁寧に取り除いていきます。
「こういう地味な作業も大事なんですよ。」と話すその姿には、派手さはなくても、一つ一つの作業に意味とこだわりが込められていることが伝わってきます。

植物にとって心地よい環境を作ること。
それが後藤さんの仕事の出発点です。

「これは、アカンサスっていう花なんですよ。」
庭に咲いている花の名前を伺ったらサラッと教えていただきました。
知らない花に出会えば写真を撮って後で調べて知識を深める。
その繰り返しが、後藤さんの引き出しの多さにつながっています。
「現場で学ぶことのほうが多いですし、花の名前を覚えるのも楽しいですよ。」
経験に裏打ちされた植物の知識は、お客様とのコミュニケーションにも役立っています。
「この植物ならそのまま育てて行ったほうがいいですよ。」といった提案も、後藤さんだからこそ出来ます。
庭の未来を見据えたアドバイスをしながら、お客様と一緒に庭を育てていきます。

造園業界は高齢化が進んでおり、「親方たちは本当にすごい人ばかり。80歳で電柱より高い木に登るんですよ」と話す後藤さんも、40代の若手として貴重な存在です。
「最近は20代の職人も増えてきましたが、中間層が圧倒的に少ないんです。自分がその橋渡しをしたい」と語ります。
合同会社藤空豆をさらに成長させ、支店を増やし、仲間を増やしたいという夢もあります。
将来的にはNPO法人を立ち上げ、自然にふれあえる場づくりや、緑化活動をもっと広げていきたいと考えています。
決して悪いことでは無いのですが、剪定等で切っている仕事よりも緑化工事にも力を入れて、もっと緑を増やしていきたいと意気込みます。

「お庭って、こっちが一方的に作るものじゃないんですよ。」
後藤さんはそう言って、お客様との対話を何より大切にしています。
植物の好み、暮らし方、思い出。ひとつひとつを聞き取りながら、「この人なら、こんな庭が似合うかも」とイメージを膨らませていきます。

完成形を押しつけるのではなく、時間をかけて一緒に育てていく。
だからこそ、庭は生活の一部になり、愛着が生まれていくのです。
「お客様と一緒に庭をつくっていくのが、いちばん楽しいんですよ」。
そう語る後藤ロレンスさんは、今日もまた静かに、緑と向き合っています。

撮影・記事＝安達カメラマン