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大工  澤田康弘の施工例

施工例写真1
取材に訪れたのは、都内某所の一軒家。ひと目見て、築年数がかなり経っているのが分かります。

見せていただくのは大和塀(やまとべい)の施工。
大和塀とは、板を一枚おきに少しずらして表裏から貼った(この貼り方を「大和打ち」といいます)塀のことです。
近年では、プラスチックやアルミでできた大和塀もありますが、今回の大和塀は木製です。
*どんな雰囲気かをいち早く理解したい方は、記事の最後をご覧くださいね!

現場に着くと、古い塀が取り壊されて、新しい塀を建てるための柱がすでに立てられていました。
施工例写真2
施工する職人さんは東京都の大工・澤田康弘さん(3人並んだ写真の中央)。
2級建築施工管理技士の資格もお持ちで、大掛かりな施工も請け負っています。
建築家が設計するような、意匠にこだわった建築にも対応できるのが自慢。
自分から建築家に提案することも多いそうです。
ちなみに、これまでに施工してきたエリアは、都内を中心に、さいたま市や横浜市周辺とのこと。

ともに作業を行なうのは、内装が得意な島田さん(写真左側)。
もうひと方、澤田さんとの付き合いも長いベテランの松田さんは、今回、外壁リフォームを担当するそうです。
施工例写真3
作業開始。
胴縁(どうぶち=水平に設置された材)を挟んで、表側の板が貼られていきます。

使われる材は杉。
一般的には、「二分三(にぶさん)」と呼ばれる、厚み7ミリほどの薄い板が使われますが、耐久性を考えて、より暑い杉板を使っています。
このほうが結果的にローコストになるとのことです。

胴縁と笠木(かさぎ=塀の上に設置する材)が米松。
とくに笠木は雨で腐りやすいので、ヒノキやヒバなど、水に強い材が望ましいのですが、今回は笠木をガルバリウム鋼板でカバーするので問題なしとのことです。
施工例写真4
こちらは解体した塀の廃材。
見事に(?)腐っています。
木材ですから年数が経てば腐るのは避けられませんが、風雨にさらされる塀だからこそ耐久性はできるだけ高くあってほしいものです。

今回の施工では、木材をキシラデコールで塗装しています。
キシラデコールは防虫・防腐効果のある木材保護塗料の代表格。
ニスなどと異なり、木材の表面に塗膜ができないので、木材の風合いを損なわないのが特長です。
耐久性はニスに劣りますが、定期的に上から塗ることでメンテナンスが可能です。
施工例写真5
澤田さんと島田さんが、協力して板を貼ります。
下穴をあけたうえで、インパクトドライバーでコーススレッド(木ねじ)を打っていく島田さん。
垂直に貼れるよう、水準器(水平器)で確認しながら作業を進めます。

コーススレッドで貼れば、材が傷んだときに交換するのも容易。
これが薄い二分三の板だと、釘で打つしかなくなり、それゆえ材の交換にかえって難しくなってしまいます。

ステンレス製の柱が表から見えないようにして、木材で作られた大和塀の雰囲気を活かすこと。
そして、節が目立たない材を表側に使うこと。
こうした部分に、意匠に強い澤田さんならではのセンスが現れています。
施工例写真6
澤田さんに、この作業で難しい点は?とお聞きしたところ、作業自体は簡単とのこと。
一番手間がかかったのは、材の表面に「浮造(うづくり)」という加工を施す作業だったそうです。

浮造加工とは、材の表面を磨いて柔らかい部分を削り、木目が浮き出るようにする加工方法のこと。
ワイヤブラシを付けたディスクサンダーで1枚1枚、この加工を施すのに、とても時間がかかったそうです。

貼られた材の写真は裏側から撮ったもの。
これがもともとの状態です。
右の写真が、浮造加工を施した表面のアップ。
きれいに木目が出ていて、同じ木材の裏表とは思えないほど、温かみや落ち着きが感じられるものに様変わりしています。
施工例写真7
難しいところはない、と澤田さんがおっしゃる作業ですが、水平・垂直をとることと、塀の天端を揃えることは重要です。
澤田さんと島田さんは、杉板を貼る前はもちろん、そのあとも正確に貼れているかどうかを確認します。
少しでも狂っていれば、もちろん、即、貼り直しです。

細心の注意を払っているので、めったに貼り直しになることはありませんが、そうなったとしてもコーススレッドで留めているので調整は簡単にできます。
施工例写真8
胴縁の内側にくる杉板を貼り、かなり完成に近づいてきました。
といったところで、本日の作業は終了。
というのも、外壁リフォームの工事が終わって足場を外さないと、この先の作業ができないのです。
ちなみに、残された作業は、足場のある部分と、全体の笠木を取り付ける作業。

この日はここで取材を終了し、あとは後日、完成した状態を見せていただくことになりました。
施工例写真9
そして後日。
完成した大和塀を見せていただきました。

浮造加工した杉板は、築年数がかなり経った建物とマッチしています。
プラスチックやステンレス製の大和塀では、浮いた感じになってしまったことでしょう。

塀の下は20センチほど浮いています。
これにはふたつの理由があるとのこと。
ひとつは、風通しをよくするため。
庭にこもる湿気が少なくなり、大和塀が腐ることも防げます。
もうひとつは防犯面。
足元が見えるため、不審者の侵入を心理的に防げるんだそうです。
施工例写真10
前回の取材では見られなかった笠木。
米松材の上に、ガルバリウム鋼板で板金業者に作らせたカバーが取り付けられています。

そして、地面にはきれいにコンクリートが打たれていました。
これももちろん、澤田さんの施工です。

胴縁は、かなり細めです。
一般的には、「力桁(ちからげた)」と呼ばれる、縦に貼る杉材と同じくらいの幅の材を使うそうですが、デザイン面を重視して細い材を使用しているとのこと。
たしかに、胴縁が細いことで、全体的に軽やかなイメージになっていますね!
材が細いぶん、強度面では不利になりますが、杉板と笠木をコーススレッドで留めることにより、荷重を分散させているそうです。
施工例写真11
塀は家の前面を占めるものだけに、街並みの景観にも大きな影響を与えます。

木でできた大和塀は、閑静な住宅街にもよく似合う。
その雰囲気が写真から伝わるでしょうか?

デザインにこだわる澤田さんのセンスが活かされた施工だと感じました。

*取材・撮影=加藤康一(Freewheel Inc.)

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