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ステンドグラス職人の東條 淳(とうじょう・すなお)さんの工房にお邪魔してきました。工房があるのは千葉県市川市。最寄りの武蔵野線・船橋法典駅まで、お迎えにきていただきました(感謝!)。 2階建ての一般住宅を利用した工房。東條さんはおひとりで製作していますが、大きなテーブルが置かれ、複数の人が同時に作業することも可能です。聞けば、ここでステンドグラス教室も行なっているんだとか。 目を引くのは、各所に設置された作品群。写真の五重塔もステンドグラスです。じつはこれ、2008年ステンドグラス美術展・プロの部で入選した東條さんの作品「春夕の五重塔」なんですよ。 |
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ステンドグラス製作に使う機器類を説明していただきました。 ライトが内蔵されたテーブルは「透視台」といって、ガラスの色合いを確認するためのもの。釜のような機械は、粉・粒状のガラスを溶かして模様の入ったガラスを作る電気炉。そして工房の奥のスペースには、ガラスの表面を削ってグラデーションをつくるためのサンドブラスター。 ステンドグラスは、ただ単に色のついたガラスを貼り合わせるだけのものではありません。さまざまな機械を駆使し、技術と知識、センスを総動員して作り上げるものだということがわかります。 |
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工房に置かれた東條さんの作品をいくつかお見せしましょう。花をモチーフにした作品は、一般住宅に設置されるステンドグラスのイメージに近いものだと思いますが、人物や馬は、どちらも絵画のような趣です。 このような表現は、ガラス面に、グリザイユと呼ばれる専用の顔料やエナメルなどの絵の具で絵付けしたり、先ほど紹介した電気炉を使って模様の入ったガラスを作ったりすることで可能になります。とくに後者は「フュージング」と呼ばれる高度な技法で、本格的なステンドグラスに取り入れている職人は、国内にそれほど多くないとのことです。 |
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ステンドグラスはランプシェード(ライト類の傘)にも使われます。よく知られているのはアメリカのアール・ヌーヴォーの第一人者、ティファニーがデザインした「ティファニー・ランプ(オデッセイランプ)」で、このスタイルのランプシェードは東條さんを含め、多くのステンドグラス教室の題材にもなっています。 東條さんが製作するランプシェードの多くは、「自らのこだわりをかたちにした作品」というよりも、クライアントに依頼によるものが多いそうですが、いずれも東條さんのセンスが光るものばかり。控えめ、かつ温かみのあるデザインで、どんなお部屋にもマッチしそうですね。 |
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かつてガラス工場で働いていたことのある東條さんは、ガラスへの強いこだわりをもっています。 バブル期に建てられた住宅には、ステンドグラスを意匠に取り入れたものが見受けられますが、その多くは東南アジア製のガラスを使ったステンドグラス。色が派手なものが多く、東條さんは自分の作りたい作品や日本の住環境には合わないと感じています。とくに光を通した時の見え方がまったく違うんだとか。このことから、アメリカ、ドイツ、フランス製のガラスのみを使っているそうです。 工房の棚にはたくさんのガラスが保管されています。同じようでいて一枚一枚の色味が異なるガラスは、光を通して見るだけで魅力を感じます。 |
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ここで、ごく簡単にステンドグラスの製作工程を紹介しましょう。 まずは型紙に合わせてガラスをカットし、周囲にコパー(銅)テープを貼ります。 それらをハンダ付けし、ブラックパティーナという薬剤を塗布して、ハンダ付けした部分を黒くします。 これで終了。……意外に簡単だと思った方が多いのではないでしょうか。実際、ステンドグラス教室では工芸そのものが初めての人が作品作りを楽しんでいますし、独学で製作する人も多いのです。 |
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これはカットしたガラスを透視台の上に並べて、色合いを確認しているところ。同じガラスから切り出したものであっても、色合いは微妙に異なります。カットしたガラスをどう配置すれば美しいステンドグラスになるのか、それを見極めるのは、経験豊富なプロの技なんです。 もちろんそれ以前に、デザインも超重要。東條さんは、クライアントの要望に合わせて複数のデザイン案を提出し、何度かやりとりしてデザインを決定しているそうです。自己満足に陥らず、クライアントの希望を叶えることができる東條さんは、作家であると同時に「職人」でもあるんですね。 |
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先ほど少し触れた「フュージング」という技法で作られた作品群。石膏でとった枠の中に粉(パウダー)や粒(フリット)状のガラスを入れて、電気炉で溶解させて作ります。 東條さんの作品の特徴のひとつが、このフュージングを活用していること。冒頭で紹介した「春夕の五重塔」や、この項の「晩秋の光明寺」、さらに次の項で掲載している滝をモチーフとした作品など、多くがフュージングと絵付けを組み合わせた技法で作られています。「ひと目惚れするようなステンドグラスを作りたい」という東條さんの思いは、こうした技術によって作品へと転化されているのです。 |
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ところで、「ステンドグラスは設置したいけど、窓を入れ替えるのはハードルが高い」という方も多いかと思われます。そんな方に東條さんが提案するのは、LEDライトを内蔵した額です。写真の、滝を描いたステンドグラスは色調を変えられるLEDライトを内蔵した額に納められ、さまざまな色を楽しめる作品となっています。 もうひとつの提案は、ステンドグラスを額に納め、窓際に吊り下げる設置方法。カーテンレールを利用するので、特別な工事は不要。外光を通して色合いを刻々と変えるステンドグラスの魅力も、十分に味わえます。こうした提案は、東條さんの「ステンドグラスにもっと親しんでほしい」という思いからくるものなのでしょう。 |
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意欲的に製作活動を続ける東條さんは、新しい依頼品にもどんどんチャレンジしています。 そのひとつが、吊り下げ式ライトのシェード。一般的に流通している室内用の吊り下げ式ライトに合わせて、ステンドグラスのシェードを作っているのです。取材時は製作途中でしたので、完成した写真を送っていただきました。 もうひとつ、写真に写っている白いステンドグラスの小箱は、なんとペット用の骨壷ケース。獣医をされている知り合いのアイデアをもとに作ってみたそうです。こんな素敵なケースなら、他界したペットとの美しい思い出がいつまでも残せそうです。
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