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千葉市のTさん宅では、母屋につながっていた店舗を取り壊し、同じ場所に6坪ほどの居室を増築する工事を行なっています。
その工程のなかで、木工事(構造工事と下地工事)を請け負っているのが、千葉県四街道市の「一ツ葉住建」。
今回は、代表の岡崎竜二さんとSさんのおふたりによる、柱・梁・桁の組み上げ、いわゆる建前の作業を紹介しましょう。
小屋組みに使われる木材は、あらかじめ図面通りにカットされ、現場では組み上げるだけであることが一般的。
ですが、今回は墨付け(図面に従って木材にカットラインを引くこと)や刻み(ホゾなどを作ること)も、現場で行ないます。作業の正確さと対応力が問われる現場です。 |
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まずは墨付けの作業。
紙の設計図は、作業場では見づらいので、必要な部分を合板に写し、それを傍らに置いて作業を進めます。
この作業にミスがあると、あとできちんと組み上がりませんから、確認しながら行なうことがとっても大切。
岡崎さんは巻尺や指矩(さしがね)を使って、正確、かつスピーディに作業を進めます。
墨付けが終わった材には、番号を振ります。専門用語では「番付け」。
材に書かれた「い又3」などという暗号のような文字は、建物のどこに入るかを示すもので、工場で刻まれてくる、いわゆるプレカットの木材も、同じルールで番付けがされています。 |
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墨付けが終わったら、刻みの作業。ここでは梁の継ぎ手(接合部分)を通る作業を通して、その工程を見ていきましょう。
まず丸ノコを使って、墨線通りに切れ目を入れます。
必要な深さに切れるよう、丸ノコの刃の出を調整して、慎重にカット。岡崎さんは複数の丸ノコを使って、作業の効率化をはかっているとのことです。
墨線に切れ目を入れたら、切り欠く部分に複数の切れ込みを入れておきます。こうすることで、ノミを使った作業が効率よくできるようになるんです。 |
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続いて、丸ノコで入れた切れ目の内側を、ノミを使って切り欠く作業。ノミは幅の違うものをいくつか用意し、ほぞの幅や作業の段階に応じて使い分けます。
木材が合わさる部分もノミで平滑に仕上げ、強度を損なわないようにします。
ちなみにここに使われている接合方法(この部分は異なる方向の材を組むので、「継ぎ手」ではなく「仕口」と呼びます)は、「大入れ蟻掛け」と呼ばれるもの。
凸側が「男木」、凹側が「女木」と呼ばれるので、これは女木ということになります。
他にもいろいろな継ぎ手・仕口が使われているので、その都度紹介しましょう。 |
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丸ノコ、手ノコ、ノミを駆使して、複雑な仕口を仕上げていく岡崎さん。
仕口にせよ継ぎ手にせよ、ピッタリと収めることが、柱や梁の強度を保つための条件なのです。
プレカットで組み上げる現場が増えている昨今、こうした作業に慣れていない大工も見受けられますが、岡崎さんもSさんも、さまざまな仕口・継ぎ手の加工をこなしています。
新築・増築はもちろんのこと、リフォーム工事であっても、構造体に手を入れる場合は、仕口・継ぎ手の知識や加工技術が必要になることがありますから、この作業ができるかどうかは現場対応力にも大きく関わってきますね。 |
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6坪ほどの小さな建物であっても、継ぎ手・仕口はさまざま。
下のふたつは、シンプルなホゾや胴差しですが、土台や桁には上の「腰掛け鎌継義」と呼ばれる、これまた複雑な形状をした継ぎ手を使います。
凸の男木、凹の女木、そして継いだ状態を見てみましょう。男木の横に張り出した部分が「鎌」で、この張り出しが材の抜けを防ぎます。
女木の下半分が出っ張っているのは、男木が下にずれるのを防ぐもの。この部分が「腰掛け」です。
岡崎さんとSさんは作業を分担し、図面を確認しながら、これらの継ぎ手や仕口をどんどん作っていきます。
ふたりでおよそ2日かけ、ほぼすべての刻み作業が終了しました。 |
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材の刻みが終わったら、いよいよ建前です。
これまでの地味な作業と違い、建物が組み上がる、ひと目でわかりやすい作業とあって、施主のTさんも作業現場を見に家の中から出てきました。
まずは柱を立てていきます。
ホゾの角をゲンノウで軽く叩いて潰し、ホゾ穴にスムーズに入るようにしてから、ホゾを差し込みます。
現場のゴミはこまめに片付け、作業スペースを確保しながら、無駄のない動きで作業を進める岡崎さんとSさん。
Sさんは臨時雇いの職人さんですが、現場経験の豊富なふたりとあって、息はピッタリです。 |
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柱をあらかた立てたところで、母屋の壁の工事。現場のままでは、母屋側の柱が立てられません。
岡崎さんは足場を組み、母屋の柱や梁の位置を確認しつつ、グラインダーで壁を切り、バールで剥がしていきます。
グラインダーの刃は複数用意し、壁材に合わせてチョイス。
抜いたクギなどを下に落とさず、作業ベルトにしまっていくところなど、あとに手間を残さない気配りが見え隠れします。
小一時間の作業で壁の工事は終了。
柱と梁、桁が組み上がるまで、あと少しです。 |
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すべての柱を立てたら梁と桁を組みます。
材の寸法はもとより、継ぎ手や仕口が正確に仕上がっていないと、建物全体がゆがんでしまい、やり直しを余儀なくされます。
岡崎さん曰く「万一のために、それぞれの材を最低1本ずつ、予備として用意しています」とのこと。
実際、今回の作業では、1カ所だけ継ぎ手が綺麗に収まらないところが出ました。
取材者の立場では「強度に問題なければいいのでは?」と思いましたが、岡崎さんはすぐにやり直しを決断。
自分が納得いくように仕上げる、大工の心意気を感じました。
取材はこれで終了。
この後、屋根や外壁の下地工事までを、岡崎さんが行なうとのことです。
どんな仕上がりになるのか、楽しみですね! |
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